――青い蒼い、癒しの光。
呪文なんて唱えなくっても、あなたの顔を見るだけで沈んでいた気持ちが浮き上がるの。
あなたの輝きは、まるで宝石。
世界でたった一つだけの、そう、サファイヤ。
「……いたた」
キングレオとの戦いを終え、アリーナは馬車へと戻ることにした。
今回のメンバーはイク、アリーナ、マーニャ、ミネアの女性4人だった。
新しく仲間に加わったライアンと共に馬車へと乗り込む。
「クリフト、回復お願い」
「分かりました、姫様」
今回は、キングレオの城に因縁が深いものを、ということでイクがマーニャとミネア、そして打撃にアリーナというパーティーを決めたのだった。
自分が馬車に残る、ということでクリフトは不満そうだったが、それでも最後は笑って送り出してくれた。
「信じてますよ、姫様と、イクさん。それから、マーニャさんとミネアさんを」
その台詞が、自分に勇気を与えてくれる。ブライのバイキルトよりも、効きそうだ。
キングレオは確かに手強い相手だったが、それでも何とか撃退することが出来た。
「ベホイミ」
ホイミよりも上級の回復呪文がアリーナを癒す。この光に包まれることで、アリーナは何よりも安心することが出来た。
「お疲れ様でした、姫様」
「うん……ねえ、クリフト」
クリフトのねぎらいの言葉が嬉しい。だが今は、何よりも言いたいことがあった。
「何でございましょうか」
そう聞き返すクリフトの顔を見るだけで安心する。先ほどキングレオの城にいた大臣の台詞を思い返し、アリーナはぎゅっと拳を握り締めた。
「サントハイムに……私達の城に……魔物が……」
声が震える。体も震える。武者震いだろうか。そうではないと言うことが、自分では一番よく分かっている。
怒りと後悔で、目の前が真っ赤に染まっていく。
こんな時は、誰よりも真っ先にクリフトの傍にいたい。クリフトに傍に、いて欲しい。
「……それならば」
優しいクリフトの声が振ってくると同時に、アリーナは顔を上げた。クリフトの青い目と目が合って、途端にアリーナは心の落ち着きを取り戻す。
「行かなければなりませんね、サントハイムに」
「ええ、勿論よ」
イクもその大臣の台詞を聞いて、すぐにサントハイムに向かうと言ってくれた。だけど、イクの口から聞くよりも、真っ先にクリフトから聞きたかった。それと、ブライからも。
「全く、我らがいない間に、何という不届きな魔物どもじゃ。成敗してやらねばならんのう」
そう言って呵々と笑うブライと、その隣で穏やかに微笑むクリフトが頼もしくて、アリーナは新たな力が沸き起こってくるのを感じていた。
やっぱり私には、この二人が必要なんだ。
そのことがどうしてか嬉しくて、自然と微笑みが浮かび上がってくる。
「ねえ、クリフト、ちょっと良い?」
クリフトを連れて、キングレオの城門の前に来た。なんて威圧的な城なんだろう。サントハイムの優美さとは、比べものにならないくらいだ。
そのサントハイムが、今や魔物の巣窟になっているという。それならば、絶対に取り戻してみせる。
固い決意を胸に、クリフトを見上げる。
クリフトの青い目はいつだって、アリーナを見守ってくれている。それを知っているから、アリーナはどんなときでも安心できたのだ。そう、さっきのキングレオとの戦いの時だって。
「……ありがとう、クリフト」
「え?」
クリフトが目を丸くする。その顔を見ながら、アリーナはただ微笑んだ。
ありがとう、あなたがいるから、私がいるの。
あなたの励ましが心にあるなら、私は何も怖くないわ。
「さあ、行くわよ、サントハイムへ」
「ええ……どこまでも、お供いたします、姫様」
――多分、他の人に「クリフトは何色だと思う?」って尋ねたら、きっと「緑」って言う答えが返ってくるでしょうね。
でもね、違うのよ。クリフトは本当は青だと思うの。
癒しの光を放つ、温かい青。
今でも覚えているわ。クリフトに初めて会った日のこと。
あなたは質素な服を着て、私の前に立っていた。だから余計に、その綺麗な青色の髪と瞳が、印象に残っているのよ。
あの時私は、あなたのことを「宝石みたい」って言ったのよね。
そしてそれは、今でも変わらないわ。
あなたは私の……私だけのサファイヤ。
END(2008/01/05)